現場から(2022年4月~2023年3月)

2022年4月から2023年の3月までの1年間の活動について簡単にご紹介します。

この1年間の主な目標は、次の4点でした。

1)ギザ遺跡に最後に残っていた私たちの施設を撤去し、船坑に蓋石を戻して、観光客が訪れることができるように整備する。

2)組み立て復原に向けて、「大エジプト博物館」の敷地内に作った「復原準備作業場」の中の施設を充実させる。

3)私たちの第二の船がどのような形に組み立て復原されるかを研究して、復原模型を作る。

4)木の部材をさらに補強するための化学物質を探すテストを開始する。

船坑の中からは実は長さが8メートルを超す超大型部材もたくさん出てきました。それらは「大エジプト博物館保存修復センター」には長すぎて入れることができなかったため、ギザ遺跡の「第二ラボ」と呼んでいた建物の中に収蔵していました。ですが「復原準備作業場」の大型テント倉庫の移築が終わったので、私たちはそこに超大型部材を運び込むことにしました。

「復原準備作業場」へ運び込まれる超大型部材

そのあと、私たちはギザ遺跡の船坑の周辺を、観光客が安全に見に来ることができるよう整備しました。「第二ラボ」を解体して更地とし、船坑のまわりに柵を巡らせました。また蓋石を船坑にもどしましたが、古代の石工が文字を記していた蓋石のいくつかは、展示のために「大エジプト博物館別館」に運ばれました。今は下の写真のように、観光客が訪れて船坑を見ることができるようになっています。

蓋石を船坑に戻す
柵を巡らした船坑
観光客に公開された船坑の周辺

一方、「大エジプト博物館」の敷地の中に設けた「復原準備作業場」では、組み立て復原に必要な施設を次々と作っていきました。まず、組み立てる直前の部材を置いておくための倉庫を作りました。これは長さ39メートル、幅3.5メートル、二階建ての建物で、空調設備も整え、たくさんの部材を仮置きすることができる施設です。

完成した倉庫とサポート班のメンバー

また、日本の文部科学省の補助金と東日本国際大学で購入してもらった大型の三次元プリンターも設置し、砂ぼこりが入らないように密閉して空調機を備えたプリンタールームを作りました。強度の不足した木の部材を組み立てる際に、私たちは三次元プリンターを使って部材の形に合わせた補強材を作ることを計画しています。こうした施設の整備は、私たちのチームの中のサポート班のメンバーが中心となって行います。

大型三次元プリンター

私たちのチームには、部材の寸法や形を測量する測量班があります。測量班のメンバーはおよそ1700点の部材をひとつづつ、観察をしながら、スケッチを描き丁寧に寸法を測って図にしていきます。そしてそれらのデータをもとに、ジグソーパズルを解いて、第二の船を組み立てるとどのような姿になるか、復原考察をしていきます。そしてその結果を、実物の十分の一の大きさの模型にして表しました。この模型は曲面の部分はスチレンボード、それ以外はバルサや木を用いて作り、最後に着色をしました。細かいところまで本物に忠実に作られた、大変素晴らしい模型です。

部材の測量をする測量班(柏木裕之先生)
第二の船の復原模型(柏木先生作製)

私たちのチームには、部材の強化処理を担当する保存修復班があります。保存修復班のメンバーは、第二の船の部材をさらに強化することができる化学物質があるかどうか、テストを始めました。テストの方法は、第二の船で使われているオリジナルの木とほぼ同じ種類の木片を人工的に経年変化させ、オリジナルと近い状態にして、いくつかの化学物質を塗布して強度や色合いの変化などを調べています。このテストの結果は2023年中には得られる予定です。

強化剤のテスト

なお、2022年8月31日には、クフ王第二の太陽の船プロジェクトが活動の場を大エジプト博物館の敷地の中に移し、船の組み立て復原をテーマとして新たなフェーズを迎えたことをメディアを通じて国内外に発信するため、「復原準備作業場」の中でセレモニーが行われました。このセレモニーには吉村作治代表、岡浩在エジプト日本国大使、加藤健JICAエジプト事務所長、アーテフ・ムフターフ大エジプト博物館及び周辺地域総責任者、ザヒ・ハワス元エジプト考古大臣、ムスタファ・ワジーリエジプト考古最高評議会事務総長がスピーカーとして出席、プロジェクトに関与してきた多くの日本・エジプト人が参列しました。

セレモニーの一コマ 左から吉村作治代表、岡浩在エジプト日本国大使、アーテフ・ムフターフ大エジプト博物館及び周辺地域総責任者、ザヒ・ハワス元エジプト考古大臣、ムスタファ・ワジーリエジプト考古最高評議会事務総長、加藤健JICAエジプト事務所長。

(2023年8月、黒河内宏昌)

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